CJリポート(中国語ジャーナル2007年7月号P.89

 

温家宝首相の国会演説から見えたもの

段 躍中(ジャーナリスト)

 

 

従来の首脳演説とは異なる

二つの点

温家宝首相が4月12日、国会で行った演説は40分余りに及んだ。これまでの中国首脳の演説と比べると、この演説には大きな変化が二つあった。一つは、日本が戦争について反省とおわびを表明しているのを、国会という場で、中国首脳が評価したこと。もう一つは、日本の協力のもとでODA(政府開発援助)や人材派遣が行われ、それに対して中国は感謝していると述べたことだ。

 また、短い演説の中に、現代までの日中の歴史を織り込んだ点に注目したい。それも、先人の名前を紹介しながらである。阿倍仲麻呂や鑑真にはじまり、孫文、周恩来、魯迅、郭沫若、そして残留孤児であり中国に救われた「美穂子さん」といったように。これは、演説を耳にしたとき、これまでの日中交流がどのようなものであったのか、具体的にイメージしやすいと感じた。さらに、首相の語り口も、これまでの指導者と異なっていた。ゆっくりした穏やかな口調からは、教養や文学的なセンスが垣間見えた。

 

効果的に使われた成語

 この国会演説では、四字成語が効果的に用いられていた。演説の肝である「戦略的互恵関係を築くための5つの原則」を例に挙げてみたい。

 “第一,互信,履行承”(第1は、相互信頼を増進し、約束を履行する。

 “第二,全大局,求同存异。”(第2は、大局を念頭に置いて、小異を残し大同につく。

 “第三,平等互利,共同”(第3は、平等互恵、共同発展を目指す。

 “第四,着眼未来,加交流”(第4は、未来に目を向け、交流を強化する。

 “第五,密切磋商,应对”(第5は、協議を密接にし、挑戦に立ち向かう。)

 「対日の“四十字方針”」と呼ばれるこれは、@見た目・形がよい、A読みやすく・覚えやすい、B力強い・訴える、C演説のポイントがよく分かる、のである。ほかにも、以下のような言葉が用いられた。

 “历时之久模之大、影响之深” (その時間の長さ、規模の大きさと影響の深さは……)

“倍加珍惜,代代相发扬光大 (いっそう大切にし、子々孫々にわたって伝え、大いに発揚する……)

“更直接、更深刻、更有效”(より直接に、より深く、より効果的に……)

このように、四字成語を三つつなげる、もしくは三字成語を三つつなげると、力強さが出るのだ。こうした手法は、特に演説に多用される。短い言葉で内容を表すと、頭に残りやすくなるからである。

 

レセプションでは

原稿なしでスピーチ

国会演説の行われた日の晩、温家宝首相の来日歓迎レセプション(日中友好協会などが主催)があった。このレセプションでも温家宝首相はスピーチをしたが、驚いたことに、レセプションの首相のスピーチは、原稿は用意されていなかった。「原稿なしというのは自分の本音、その中の言葉を引き出すからです」と述べた首相のスピーチは、会場で好評を博した。

スピーチの中で印象的だったのは、首相が母との電話に触れたことである。中国に生中継された国会演説を聞いた首相の母はとても喜び、ホンネで語ったと首相を褒めたそうである。中国の政治家が外交の場で母のことを語るというのは異例である(少なくとも、私は一度も耳にしたことがない)。このエピソードは、親子の愛情や人情を大切にする日本人の心をよく理解している現れではないだろうか。

 

写真

800人を超える来場者があった歓迎レセプション(撮影:段躍中)